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発表要旨

1.北海道の森とそこで暮らす生き物たちのモニタリング

内海俊介(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター・准教授)

日本は世界有数の森林国で、国土の森林率はOECD加盟国の第3位になります。そしてその豊かな森には、そこを住処とするたくさんの哺乳類や昆虫類がいます。森は森のまま、緑のままなので、中で変化が起きているようにはあまり見えないかもしれません。しかし実際には、植物達も動物達もダイナミックな変化とともにあり、さらに近年の気候変動などによってもその姿を大きく変えつつあります。北海道大学の広大な研究林を舞台に行われてきたモニタリングで分かってきたことや、最近の挑戦についてご紹介します。

 

2.野生生物の行動を追う:サケ科魚類のモニタリング調査

岸田 治(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター・准教授)

生物はいつ、どこにいて、どんな生き方をしているのでしょうか? 同じ種でも個体によって生き方が違うのはなぜでしょうか? たくさんの個体を追跡して調べることができたら、その種の知られざる生態に迫ることができそうですが、個体追跡にはとてつもない労力がかかります。北大苫小牧研究林では、2018年の秋から最新の個体識別技術(交通系ICカードと同様の技術)を駆使して、川にすむ数千尾のサケ科魚類の成長や行動を調べています。苫小牧研究林の教職員と学生が力を結集し継続している本調査から、どのようなことがわかってきたのかを紹介し、力技の生物調査の魅力をお伝えします。

 

3.海洋生物のモニタリングの今

仲岡 雅裕(北大北方生物圏フィールド科学センター・教授)

地球表面の7割を占める海洋には実に多様な生物が生活しています。しかし陸上生物である私たち人間は非常に限られた方法でしか海洋生物を観察することができず、その変化を十分に知ることができませんでした。しかし、各地で共通の方法で長期かつ広域に観測するネットワーク調査を通じて、海洋生物の変化にかかるさまざまな情報が集積してきました。さらに近年ではこれまでの限られた現地観測を補ういろいろな新しい技術が開発されています。本講演では沿岸海域で重要な役割を果たしているアマモ場(海草藻場)を対象に、これまでの広域長期モニタリングの結果どのようなことが分かってきたかを紹介するとともに、衛星画像やドローンを用いたリモートセンシング技術と現地観測を組み合わせた新しい観測方法について紹介したいと思います。

 

 

4.環境DNAでみる希少種・外来種分布  

荒木 仁志(北海道大学大学院農学研究院・教授)

近年、「水を汲めばそこに含まれるDNAから周辺生物のことが分かる技術」として環境DNA技術が注目を集めています。本講演ではその原理を概説すると共に、この技術を直接捕獲が難しい希少種や外来種に応用した実例を紹介します。「幻の魚」イトウやサケ、石狩川周辺で分布を広げるアズマヒキガエルの環境DNA解析結果を示しつつ、その有用性や今後の課題について参加者の皆さんと議論したいと考えています。

 

5.環境DNAおよび環境RNA分析の今と未来

山中 裕樹(龍谷大先端理工学部・准教授)

環境中から回収できるDNA試料が私たちに知らせてくれる情報は、新規技術の開発によってどんどん増えています。種類を知る技術として始まった環境DNA分析は、生物量や同種内での遺伝的多様性を知る技術へと発展を続けている一方、同じように環境中から回収される環境RNAも、より「新鮮な」生息種の情報を教えてくれたり、もしかすると「生物の状態」を知る分析対象になるのではないかと注目され始めています。こうした技術の現状と、それらの自動分析装置装置の開発に関わる最新情報を紹介します。

 

6.環境DNAで遺伝的多様性をみる

内井 喜美子(大阪大谷大学薬学部・助教)

遺伝的多様性とは、ひとつの生物種が持つ遺伝情報(= DNAの塩基配列の並び)の多様性のことです。生物の種ひとつひとつが異なる遺伝情報を持つように、同じ種のなかでも個体によって遺伝情報には違いがあるのです。種内の遺伝的な違いに着目すれば、個体数の減ってしまった希少種の健全性を評価したり、生態系を脅かす外来種の移動経路を推定したりすることができる可能性があります。今回は、琵琶湖の美味しい希少種ホンモロコや、悪名高い外来魚バス・ギルをターゲットとした試みについて紹介したいと思います。

 

7.環境DNAのタイムカプセル - 海や湖の底にたまった堆積物

土居 秀幸(京都大学大学院情報学研究科・教授)

加 三十宣(愛媛大学沿岸環境科学研究センター・准教授)

環境DNA研究の多くは、”水”から環境DNAを取り出して調べるものですが、本講演では、海や湖などの底に溜まっている”堆積物”から環境DNAを取り出して調べた結果をご紹介します。堆積物は、毎年降り積もります。それを柱状に採取すること、過去に降り積もったDNAも調べることができることから、過去の環境DNAを調べることができます。例として別府湾の堆積物中の環境DNAから魚類の300年以上にわたる動態を調べた成果などを示しつつ、過去の変化を明らかにする方法としての、堆積物DNA解析の今後の可能性について参加者の皆さんと議論したいと考えています。

 

8.誰もが参加・利用できる環境DNA観測ネットワーク:ANEMONEの挑戦

近藤 倫生(東北大学生命科学研究科・教授)

日本には世界にも他に例の少ない、大学-企業-行政-市民が支える環境DNA観測網「ANEMONE」があります。全国の沿岸や河川・湖沼、さらには定期航路を利用した外洋での観測も実施しています。現在の主な対象は魚類ですが、これからは哺乳類・甲殻類や植物など他のさまざまな生物にも拡大していく計画です。ANEMONEで得られた生物多様性情報は専門のデータベース「ANEMONE DB(https://db.anemone.bio)」で公開されていて、誰でも利用できます。この誰もが参加し、利用できる生物多様性観測網の仕組みと目標、さらには今後の自然利用や生物多様性保全に貢献するための発展の可能性についてお話しします。

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